手作り味噌のすすめ
~味噌が教えてくれること~
■ はじめに
日本には、古くから「食べる薬」と呼ばれてきた食品があります。
それが、味噌。
大豆・塩・麹というシンプルな材料が、
季節を越えてゆっくりと発酵することで、
私たちの体を整え、心をあたためる力を持った食べ物へと変わっていきます。
味噌は、ただの調味料ではなく、
日本の暮らしの知恵そのものです。
この記事が、あなたが今日、味噌づくりに踏み出すきっかけとなりますように。
■ 長崎の原爆直後──味噌汁が人々を支えた物語
1945年8月9日。
長崎に原爆が落とされた直後の混乱の中で、
聖フランシスコ病院の医師 秋月辰一郎 は、
職員や患者にこう指示しました。
「玄米を炊き、塩を利かせた味噌汁を飲ませなさい。」
病院には偶然、玄米・味噌・わかめが大量にありました。
極限の中で人々を支えたのは、
昔ながらの素朴な食べ物だったのです。
この出来事は秋月医師の著書
『体質と食物』 に記されている実話です。

科学だけでは説明しきれない、
しかし確かに人々の体と心を支えた“味噌汁の力”。
味噌が持つ「食の底力」を感じさせてくれる物語です。
■ 発酵が生み出す“身体を守る力”
味噌が体に良いのは、発酵が時間をかけて
大豆の栄養を引き出し、さらに新しい力を宿すからです。
発酵によって、味噌の中には次のような恵みが生まれます。
◎ 大豆から“引き出される力”
- アミノ酸(うま味のもと)
- 有機酸(味の深み・保存性)
◎ 発酵中に“新しく生まれる力”
- 乳酸菌(腸を整える)
- 酵素(消化を助ける)
- 抗酸化物質(熟成とともに増加)
- ビタミンB群(麹菌・酵母が合成)
◎ “吸収しやすい形へ変わる栄養”
- ミネラル類(鉄・亜鉛・マグネシウムなど)
大豆だけでは決して生まれない栄養が、
麹と時間の力で豊かに育ち、
味噌という“生命の食べ物”になります。
■ 発酵の力は科学でも注目されている
広島大学の研究(渡辺敦光教授)では、
味噌に含まれる成分が、動物実験において
放射線による消化管ダメージを軽減する可能性
が報告されています。
味噌は魔法ではありません。
しかし、発酵という自然の営みが持つ力は、
今、科学の光によって少しずつ理解され始めています。
■ チェルノブイリ後、ヨーロッパで味噌が求められた
1986年のチェルノブイリ原発事故ののち、
不安に包まれたヨーロッパで、
秋月医師の体験や味噌の研究が紹介されました。
その結果、自然食やマクロビのコミュニティを中心に、
味噌を求める動きが広がったと記録されています。
味噌は、世界が不安に包まれたとき、
人々が「体を守る食」として選んだ食品のひとつでした。
■ 味噌は「生きた食品」
味噌の魅力は、
材料・菌・時間が協力しあって育つ“生きた食品”であることです。
- 熟成が進むほど味が深まる
- 麹菌が大豆の栄養を引き出す
- 塩が発酵を守り、保存性を高める
手作り味噌は、火入れをしないため
乳酸菌・酵素・酵母がそのまま生きています。
そして、同じ材料でも、家ごとに味が違うのは
その家の菌が味噌を育てるから。
まさに世界にひとつの「わが家の味噌」です。
■ 味噌作りのすすめ
市販の味噌も素晴らしい食品ですが、
手作り味噌には、それ以上の魅力があります。
- 余計なものを入れない安心感
- 素材を選べる自由
- “生きた味噌”を食べられる贅沢
- 家族だけの味が育つ喜び
なにより、自分の手で仕込んだ味噌は
その人のエネルギーが宿る食品です。
お味噌汁をすするたび、
心が静かにほぐれるのは、
ただの栄養だけではなく、
“作り手の想い”が溶け込んでいるからかもしれません。
■ おわりに 〜味噌が教えてくれること〜
味噌は、日本が千年以上の時間をかけて育ててきた
“静かな宝物”です。
今日仕込む味噌は、
これからゆっくりと熟成し、
あなたの食卓を支えてくれます。
味噌作りは、
自分の体を守り、
大切な家族の未来への
あたたかな贈り物です。
どうか今日のひと手間が、
あなたの日々に豊かさと安心をもたらしますように。
そして、あなたが仕込んだ味噌が、
何ヶ月後、何年後の食卓で
静かな幸せとして花開きますように。

