発酵におけるスターターとは
発酵におけるスターターとは、発酵を始めるために添加される微生物やその培養物、またはそれを含む材料のことを指します。スターターは、特定の微生物を意図的に利用することで、発酵プロセスを効率よく、安定して進行させる役割を果たします。
主なスターターの種類と用途
スターターには、使用される発酵食品や目的に応じてさまざまな種類があります。以下に代表的なものを挙げます。
1. 乳酸菌スターター
- 例:ヨーグルト、チーズ、漬物
- 目的: 乳酸菌を添加して、食品を酸性にし保存性を高めたり、風味をつけたりします。
- 具体例:
- ヨーグルトの種菌(乳酸菌株を含む)
- 乳酸菌飲料に用いられるスターター
2. 酵母スターター
- 例:パン、ビール、ワイン、味噌、醤油
- 目的: 酵母が糖をアルコールや二酸化炭素に分解し、膨らみや発酵を促進。
- 具体例:
- ベーカリーイースト(パン用酵母)
- ワインやビール用の酵母スターター
3. 麹スターター
- 例:味噌、醤油、甘酒、清酒
- 目的: 麹菌がデンプンやたんぱく質を分解する酵素を作り出し、うま味や甘味を生む。
- 具体例:
- 種麹(麹菌を米や麦に繁殖させたもの)
- 日本酒製造で用いる黄麹
4. カビスターター
- 例:ブルーチーズ、テンペ
- 目的: 特定のカビを利用して、食品の風味や質感を変化させる。
- 具体例:
- ペニシリウム(ブルーチーズの青カビ)
- アスペルギルス(味噌や醤油の製造)
5. 複合スターター
- 例:ぬか漬け、キムチ
- 目的: 乳酸菌、酵母、麹菌など複数の微生物を利用して独自の発酵を進行。
- 具体例:
- ぬか床(乳酸菌や酵母が自然に発生したものをスターターとして使う)
スターターを使う理由
スターターを使用することで、発酵を計画的かつ安全に進めることができます。
- 発酵の安定化
- 必要な微生物が確実に作用し、不適切な微生物の混入を防ぐ。
- 例えば、酒造りで特定の酵母を加えることで、望ましいアルコール発酵が進む。
- 発酵時間の短縮
- スターターを添加することで、自然発酵よりも速く発酵が始まります。
- 風味や品質の均一化
- 一貫した微生物の作用により、製品の品質が安定する。
- 市販のヨーグルトやパンが同じ風味を保つのはスターターのおかげ。
- 安全性の向上
- 望ましくない腐敗菌や有害菌の繁殖を抑制する効果があります。
自然発酵との違い
- スターターを使う発酵:
- 意図的に選ばれた微生物を利用。
- より速く、安定した結果が得られる。
- 自然発酵:
- 環境中の微生物が自然に作用。
- 風味に個性が出るが、予測しにくい場合も。
スターターの具体例
- ヨーグルト作り: 市販のヨーグルトをスターターとして利用。
- 味噌作り: 種麹を追加して発酵促進。
- ぬか漬け: 熟成したぬか床を他のぬか床のスターターとして利用。
甘酒作りのスターター
甘酒作りの場合、微生物そのものが直接活性化して働くわけではなく、米麹が持つ酵素が主役となるため、スターターの役割に少し特徴があります。
米麹がスターターと呼べる理由
- 酵素を供給する役割
- 米麹は、麹菌(アスペルギルス・オリゼ)によって発酵させたお米で、豊富な酵素(アミラーゼやプロテアーゼなど)を含んでいます。
- 甘酒作りでは、この酵素が米のデンプンをブドウ糖に分解して甘味を引き出します。
- したがって、甘酒作りにおける米麹は「酵素スターター」としての役割を果たしています。
- 発酵の基盤となる微生物の産物
- 米麹自体は、麹菌が繁殖したお米であり、麹菌が生産した酵素やその他の成分が甘酒作りの発酵を促します。
- 微生物が甘酒作りの過程で活動しなくても、麹菌が事前に生産した成分が、発酵に必要な変化を引き起こします。
- 自然発酵を安定させる役割
- 米麹を使用することで、自然発酵に頼るよりも安定的に甘味を生み出すことができます。
- これはスターターが発酵食品において果たす役割そのものです。
他のスターターとの違い
米麹は、発酵過程で微生物が直接働くタイプのスターター(例:ヨーグルトやパンの種菌)とは異なり、酵素を供給するための間接的なスターターです。
- 酵素の働きが主体: 微生物の活動を直接利用するのではなく、酵素反応を促進。
- 菌の活動が停止している: 甘酒作り時の55~58℃という温度では麹菌そのものは不活性化しており、発酵過程には関与しません。
甘酒作りにおける米麹は、酵素スターターとしての役割を果たしています。麹菌が事前に生成した酵素を利用して発酵を効率化し、甘味を引き出す点で、スターター食品の一種と考えられます。
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